映画「その土曜日、7時58分」

その土曜日、7時58分
BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD

 最近の映画には珍しく邦題と原題が違うけど、どっちもいいと思う。イーサン・ホークが好きなのと、新聞のレビューが気になったのとで、見に行くことにした。直前にR-18だと知ってちょっと怯んだけど、今更引き返せない。
 よく映画を見に行くツレを誘ってみたら、「イーサン・ホークの出る映画はつまらないから行かない」と断られた。『リアリティ・バイツ』と『テープ』と『トレーニング・デイ』に付き合わせたことがあるから反論できないw(つまらないかどうかはともかく我々には合わず。ツレは半分くらい寝てた)
 恵比寿ガーデンシネマは、自由席で当日発券の整理番号制。今日見たシアター1は、真ん中に11席、両脇に2席ずつ。傾斜はあまりない(特に前方はほとんどない)けど、スクリーンが上の方にあるから、快適に見られる方だと思う。ミニシアター系映画にはあまり興味がないので、年に1回くらいしか行かない。
 以下多少のネタバレあり。


 完全犯罪のつもりが、小さな綻びからすべてが壊れる話。ちょっと古いけど『太陽がいっぱい』とか『地下室のメロディ』みたいな話かなと思っていた(私は地下室が好き)。実際はそれらと比べると、もっと登場人物が生々しいかんじで、計画はずさんで、初めから破滅の匂いがぷんぷんする。
 何度も視点と時間軸を切り替えながら話が展開するやり方は途中でだれないのがいい。今年上半期に見た『バンテージ・ポイント』ほど、それぞれの視点が整理されてるわけではなかった。でもそのこんがらがったかんじが、兄弟の迷走っぷりを表していると言えるかもしれない。
 イーサンはダメ親父・ダメ男の役が本当によく似合ってる。いい年して女にすがっても許せてしまう男は貴重だ。兄が父に、弟の方が顔が可愛いから好きなんだろうと言うシーンではちょっと笑ってしまった(「顔が」は幻聴かもw)。まあたしかに可愛くないよりは可愛い方がいい。現実は残酷だ。父は長男を愛してると言うけど、それはもう自立した息子を見る目であって、未だに庇護すべき坊やな扱いの弟とはやっぱり違う。
 だけど、親父に愛されないから道を踏み外したなんて言い訳が許されるのはせいぜい18くらいまで。もう不惑も過ぎてそれなりの地位にもあるようなのに(美人な奥さんもいるというのに!)、この人は様々な誘惑に負けて、自分の人生も他人の人生も壊してしまう。
 この兄弟は本当にダメなやつらなんだけど、私も誘惑に弱い人間なので、2人の転落っぷりが怖かった。私は落ちるとすれば弟タイプ。甘い言葉につられて犯罪に手を染めても、自分でやる勇気はないし、人は殺せないという、どっちに転んでもダメな人間。この映画でヘタレな弟の背中を押したのは、娘にいい顔したいという、本当に些細なことだった。欲望って怖い、なるべく無欲な人間になろうと、見終わって1時間くらいは真剣に考えた。
 いい俳優を揃えてると思うけど、一番印象に残ったのは父親かな。奥さんと本当に仲がよく理想の夫婦に見えて、この2人が育てた兄弟が何故あんなことに…と思ってしまう。終盤のハンドルを握る顔や兄とのシーン、淡々として鬼気迫るかんじがいい。
 イーサン・ホークは出てるけど面白かったよ、と報告したい。1800円払ったけど後悔しなかった。
 心配していた18禁シーンは最初の数分だけなので、ちょっと目を瞑っとけば大丈夫。逆に見逃したくない人は遅刻厳禁(笑)。
 予告で気になったのは『ブーリン家の姉妹』くらいだった。これまで姉妹の配役しか知らなかった(文庫の表紙になってるので)けど、王がエリック・バナだと知って俄然興味がわいてきた。トロイのお兄ちゃんが最高だったから、彼の歴史物には期待してしまう。今回はダメ男っぽいけど(笑)。これは1000円なら見たいかな……。